次世代エネルギー戦略：系統用蓄電池の重要性
昨今、国や地方自治体は系統用蓄電池の普及を推進しています。2030年のエネルギーミックスにおいて、再生可能エネルギーの割合を引き上げることが目指され、再生可能エネルギーの導入を一層進めることが求められています。
これにより、持続可能なエネルギー供給が実現し、脱炭素社会の構築に寄与することが期待されています。この目標達成には、再生可能エネルギーのさらなる拡大が必要です。
しかし、再生可能エネルギーの急増に伴い、出力抑制や天候による発電量の変動といった不安定性が課題となっています。この問題を解決するために、蓄電池が重要な役割を果たします。
系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの拡大と電力系統の需給バランスの改善を支えるため、世界中で導入が進んでいます。
このように、系統用蓄電池を活用した新しいビジネスモデルが注目されており、国の補助金制度が強化されたことも追い風となり、今後の市場規模の拡大が期待されています。
系統用蓄電池とは
系統用蓄電池は、電力需給の調整や再生可能エネルギーの導入を促進するために、電力系統や再生可能エネルギー発電所に直接接続される蓄電池です。
具体的には、太陽光発電によって生成された電力や卸電力市場から購入した電力を蓄え、必要な際にその電力を放出して市場に売電することが可能です。
この仕組みにより、蓄えた電力を市場に売却することで高い経済的利益を得ることができ、また、発電量が天候に左右されやすい再生可能エネルギーの不安定性を解消し、電力系統の安定化を図ることができるため、関心が寄せられています。
未来の人口とエネルギー
世界の人口は今後60年間で増加し、2024年の82億人から2080年代半ばには103億人に達する見込みです。その後、今世紀末までに102億人に減少すると推計されています。『世界人口推計2024年版：結果の概要』参考。この人口増加に伴い、電力消費も増加し、再生可能エネルギーの重要性が高まります。
資源エネルギー庁参照
出典：IEA「Market Report Series - Renewables 2022（各国2021年時点の発電量）」、IEA データベース、総合エネルギー統計(2021年度確報値) 等より資源エネルギー庁作成
電力の需要と供給のバランスを担う
電力の需要と供給は常に「同時同量」でなければなりません。これは、電力システムが需要（消費量）と供給（発電量）を常に一致させるように調整されているためです。しかし、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が進むと、需要と供給のバランスが崩れることが増えます。
このバランスが崩れると、電圧や周波数が不安定になり、大規模な停電のリスクが高まります。このため、需給バランスを考慮した出力制御が必要です。また、送電容量には限界があるため、系統容量制約による出力制御も行われます。
これに対処するため、余剰電力を蓄電池に蓄えることで、電力需給の安定化が期待されています。
出展：資源エネルギー庁「出力制御について」から引用
蓄電池市場による利益創出
2022年5月の電気事業法改正により、系統用蓄電池を活用した市場取引が解禁され、蓄電池は高利回りの投資として注目されています。
電気は日本卸電力取引所（JEPX）で取引され、市場価格は時間帯によって変動します。電力需要の低い時間帯に安く電気を購入し、需要の高い時間帯に売電することで、その価格差から利益を得ることが可能です。
系統用蓄電池を利用した投資では、売買のタイミングが重要で、卸電力市場の動向や価格変動に関する専門知識が求められます。
市場価格は「放電力需給」「気象条件」「燃料費」などに影響され、特に深夜から早朝の需要が低い時間帯は価格が安く、日中は高くなる傾向があります。
このため、夜間に蓄電池に充電し、日中に放電することで高い収益が期待できます。
最近の国際情勢の不安定化やエネルギー資源価格の高騰、異常気象による電気料金の変動が、卸電力市場の価格差を拡大させ、系統用蓄電池の投資メリットを高めています。このような環境が、系統用蓄電池への関心を集める要因となっています。
電力確保とBCP
Business Continuity Plan (事業継続計画)
自然災害の頻発、グローバル化、テクノロジー依存の高まり、法規制の強化、顧客の期待、競争力維持、経済的損失の軽減、従業員の安全確保などの要因から、企業はリスクへの備えを強化する必要があります。
BCP対策としての電力確保は、その重要な一環となっています。「電力確保」は重要な施策であり、事業継続や人命救助のためには一定の電力が必要です。日本では72時間以上の非常用電源の確保が推奨されています。
系統用蓄電池は自社の施設に接続することで停電時に非常用電源として活用でき、BCP対策として非常に有効です。特に、蓄電容量が2,000kWh以上の大容量機種は効果的です。自社の電力使用量を把握し、蓄電池容量の一定割合を非常用として確保することが推奨されます。
さらに、系統用蓄 電池はピークカットによる電気料金の削減効果も期待できます。ピークカットとは、1日の中で最も電気を使用する時間帯の最大デマンドを削減することを指し、基本料金はこの最大デマンドによって決まります。
系統用蓄電池を活用することで、電力使用 量の少ない早朝や夜間に電気を蓄え、日中のピーク時にその電気を使用することが可能です。これにより、1日の電力使用量を減らさずにピークカットを実現し、基本料金の削減に繋がります
補助金制度の強化
2030年のエネルギーミックス達成に向けて、さらなる再生可能エネルギーの導入拡大が求められており、国や自治体は系統用蓄電池の普及を推進しています。
補助金制度を活用することで導入コストを抑え、系統用蓄電池の収益によって早期に費用回収が見込めます。
最近では系統用蓄電池の大規模化が進んでおり、設置に適した土地の確保や取得費用、工事費用などが導入コストの課題となっています。
しかし、系統用蓄電池の市場価格は年々低下しており、補助金制度も充実しているため、トータルコストを確認し中・長期的なシミュレーションを行うことが重要です。
国が補助金制度を強化した背景には「出力制御の増加」があり、再生可能エネルギーのさらなる導入には、天候による発電量の変動に対応する調整力の確保や、電力需要が少ない時間帯に生じる余剰電力の有効活用が求められています。
電力の余剰や不足に応じた充放電を行うことで、電力需給の安定化が図られ、再生可能エネルギーの効果的な利用が促進されています。
